つなぐ伍拾五

本編は、実際の地名等がでて来ますが、全く架空のお話です。ご理解くださいませ。

それから翔の眼の前にあったのは

地獄だった。。

もう誰一人、翔の元で手当てを受ける者はいない。

体中に、数えられない程の矢を刺したまま、刀を振り上げ、前に進む。

命の尽きるその最期の時でさえ、己れを刺した敵に抱きつき下敷きにする。

翔の後ろからは、書院に匿われた傷兵が次に戦いへと出ていった。

大八車の体当たりを受け、両足を骨折した者が這い進み、座ったまま矢を射る

翔が手当てを諦めた傷を腹に受けた者が、長槍を杖に敵の只中に身をなげる。

噎せるような生臭い臭い

ホコリと血とはらわたの臭い

武芸?

そんなモノじゃない殺し合い

命がけ

負けるそれは死を意味する。

それは、信忠勢も明智勢も同じ。。

明智は、既に主君だった信長を倒している。

ここで天下を取らねば、家族共全員、四条河原に晒し首ぞ!

なりふりなぞ、構っていられる訳がない。

一人の武将を10人がかりで滅多刺しにしてでも恥じとは思わない。

人の表情はこんなにおぞましくなるのか?

恐怖を通り越すと、人は笑いだすのか。。

眸を見開き、浮かべる満面の笑みは、身の毛がよだつ。

この世の地獄。。

皆、生きながらにして地獄の門をくぐった者

無門。。

お前はお前の傷はこの中で負ったモノなのか?

この地獄で生き、なぜ正気を失わない。。

なぜ、そんなに強くいられる。。何故?

お国どのが、お前を支えたからか?

無門お前は今、どこにいる。

涙を滲ませ、ホコリの向こうに見える地獄に

翔は震える手をあわせ、念仏を唱え続けた。

その時、翔の眼に家臣の肩を借り、脚を引きずり本殿に入る信忠の姿が眼に入った。

信忠さま!

翔はその信忠のあとを追い、本殿の奥へとはいっていった。

手当てをするために。

寺の中で生きて来た翔は、武家のしきたりの何も知らなかった。

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